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横浜地方裁判所 平成9年(行ウ)11号 判決 1998年3月30日

横浜市港北区師岡町四七番地の一 九〇四号

原告

長井滿

右訴訟代理人弁護士

金子正和

川口哲史

横浜市港北木大豆戸町五二八―五

被告

神奈川税務署長 佐伯龍夫

右指定代理人

竹村彰

上武光夫

池上照代

宇山聡

光吉正博

須川光芳

林裕之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告の平成六年分所得税について平成七年六月三〇日付けでした、分離長期譲渡所得金額五〇四四万六五五八円、納付すべき税額一三三五万〇二〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、平成二年一一月三日に開始した相続に係る相続税の納付について、平成三年五月一日、被告に対し、右相続により取得した土地を物納申請したが、被告から、平成五年一一月一〇日、右土地は物納財産として収納不適当であるとの通知を受けたため、同年一二月一三日、これを、同じく相続財産である地上の建物とともに五六〇〇万円で他に売却代金を納税資金として、平成六年二月七日、相続に係る相続税額等四五九三万七五〇〇円を納付した上、平成七年三月一〇日、平成六年分所得税の確定申告に際し、右土地建物の譲渡に係る長期譲渡所得金額を、租税特別措置法三九条一項を適用して、右相続税額を取得費に加算するなどした必要経費の合計を五四〇一万〇八〇〇円とし、これを右売却代金額から控除した一九八万円九二〇〇円とする旨の申告をしたところ、被告から、右土地建物の譲渡は、相続開始の日の翌日から、相続税の申告書の提出期限の翌日以後二年を経過した後にされたもので、同法三九条一項の適用はないから、右相続税額等を取得費に加算することはできないとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定を受けたため、これらが違法であるとして、その取消しを求めている事案である。

二  争いのない事実

1  原告は、平成二年一一月三日、父長井一の死亡により、別紙物件目録記載の土地建物(以下、それぞれ「本件土地」、「本件建物」といい、これらを併せて「本件不動産」という。)及び大倉産業株式会社の株式(以下「大倉産業株」という。)四〇〇〇株を相続により取得した。

2  原告は、平成三年五月一日、右相続により原告が納付すべき相続税額を五〇九六万四四〇〇円と記帳した相続税の申告書及び右相続税額のうち四九七六万九五〇〇円について、本件土地による物納を求める旨の申請(以下「本件物納申請」という。)書を被告に提出した。

3  被告は、平成四年九月一日付けで、右物納申請に係る相続額四九七六万九五〇〇円について、平成三年五月八日から本件物納申請書が許可又は却下されるまでの間、徴収を猶予する旨の通知をした。

4  関東財務局横浜財務事務所長(以下「横浜財務事務所長」という。)は、平成五年六月二二日付けで被告に対し、以下の理由により、本件不動産を物納財産として収納することが不適当とみとめられるとの本件不動産に係る調査の回答をし、被告は、同年一一月一〇日、原告に対し右回答書の写しを送付し、その旨通知した(以下「本件通知」という。)

「本申請地の形状は自然崖と宅地からなっており、そのうち自然崖は、申請により急傾斜地崩壊危険区域に指定できる状況にあるとの横浜治水事務所からの回答を得ている状況にある。よって、宅地部分を利用するためには相当大規模な補修工事が必要とされること、併せて現状のままでは今後の維持管理上多額な工事費が見込まれるほか、通常の用途に供することもできないことから、物納財産として収納することは不適当と認められる。」

5  原告は、平成五年一一月一七日、本件物納申請を取り下げるとともに、相続税延納申請書を提出し、本件相続税額四五九三万七五〇〇円(原告が前記相続税の申告の後、平成三年九月三〇日付け及び同年一二月一三日付けでした相続税の各修正申告、さらに、被告が原告に対し、平成五年一〇月二九日付けでした相続税の更正処分を経た後の税額)のうち四四七四万二六〇〇円について延納を求める旨の申請をした。

6  原告は、平成五年一二月一三日、株式会社フルカワ(以下「フルカワ」という。)との間で、本件不動産を五六〇〇万円(本件土地が五三六〇万円、本件建物が二四〇万円)で譲渡する旨の契約を締結し、平成六年一月一七日、本件不動産をフルカワに引き渡した。

7  被告は、原告に対し平成六年一月三一日付けで本件不動産の相続税額を四三一三万六七〇〇円、納期限である平成六年二月一八日までの利子税額を五四七万七五〇〇円とする旨通知した。

8  原告は、平成六年二月七日、本件不動産の売却代金を納税資金として、右相続税額と利子税額の合計四八六一万四二〇〇円を納付した。

9  原告は、平成七年三月一〇日、被告に対し、平成六年分所得税の確定申告書を提出したが、右申告に当たり、租税特別措置法(以下「措置法」という。ただし、平成六年法律二二号による改正前のものをいう。以下同じ。)三九条一項を適用して、建物取得費二五二万八一〇〇円に前記更正処分後の相続税額四五九三万七五〇〇円を加算し、これに譲渡費用六万七七〇〇円を加えた合計五四〇一万〇八〇〇円を必要経費とし、これを本件不動産の譲渡代金五六〇〇万円から控除した一九八万九二〇〇円をもって、本件不動産譲渡に係る長期譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)金額とした。

10  被告が原告の平成六年分所得税についてした更正処分、過少申告加算税賦課決定(以下それぞれ「本件更正処分」「本件賦課決定」といい、これらを併せて「本件更正処分等」という。)、原告がした異議申立て及びこれに対する決定・裁決の経緯は、別表「本件更正処分等の経緯」記載のとおりである。

三  争点

本件の争点は、(1)本件土地の物納申請に対し、これを不適当とする通知(本件通知)が措置法三九条一項所定の二年の期間が経過した後にされているが、その場合、例外的に、右土地譲渡に係る長期譲渡所得(本件譲渡所得)の算定に当たり、同項の特例を適用して右土地の相続税額を取得費に加算することができるかどうか、(2)被告のした本件通知が違法であり、そのため本件更正処分等も違法、無効となるかどうか、(3)平成六年法律二二号による改正後の措置法(以下「改正措置法」という。)三九条一項は、前記特例の適用範囲を従前の二年から三年に延長したが、同項の適用について、同法附則九条五項は、これを同六年一月一日以後に個人が相続又は遺贈により取得した資産を同日以後に譲渡した場合にかぎるとしているところ、これは、相続の開始が右日時の前か後ろという基準により形式的に右適用を区別するもので、憲法一四条、二九条に違反するかどうか、(4)本件更正処分等は、結果として原告が相続を契機として取得した財産以上の税額を課するもので、合理性を欠き、憲法一四条及び二九条に違反するかどうか、(5)本件更正処分等の前提となった不動産の取得費等の算定法方の当否である。

これらについての当事者双方の主張は次のとおりである。

1  措置法三九条一項の適用について

(被告の主張)

措置法三九条一項は、相続の開始があった日の翌日から、当該相続に係る相続税の申告書の提出期限の翌日以後二年を経過するまでの間に、相続税額の基礎に算入された資産を譲渡した場合、右資産の譲渡所得の計算において、当該資産に対する相続税額を取得費として加算すると規定している。そして、本件相続の開始があった日は平成二年一一月三日であるから、本件相続に係る相続税の申告書の提出期限は、相続税法二七条一項(ただし、平成、四年法律一六号による改正前のものをいう。以下同じ。)及び国税通則法(以下「通則法」という。)一〇条二項により、平成三年五月七日(右各規定によれば、右申告書の提出期限は、平成三年五月三日となるところ、同月三日から六日までは休日である。)となる。したがって、本件不動産が、平成五年五月七日までに譲渡されなければ、措置法三九条一項の適用は受けられないところ、本件不動産の売買契約の締結は平成五年一二月一三日にされ、引渡しは平成六年一月一七日にされたことは前記のとおりである。

よって、本件の場合、措置法三九条一項の適用の余地はなく、被告が本件譲渡所得の算定に当たり、本件土地の相続税額をその取得費に加算しなかったことは適法である。

原告は、本件物納申請に対する被告の回答が遅延したため、措置法三九条一項所定の期間内に本件土地を譲渡する機会を逸したとして、例外的に、措置法三九条一項の適用が認められるべきであるとする。しかし、措置法三九条一項は、相続の開始があった日の翌日から、当該相続に係る相続税の申告書の提出期限の翌日以後二年を経過するまでの間に、当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡することが要件とされており、右の期間を経過した後に資産を譲渡した場合の救済規定は設けられていない。一般に、租税法規について、その文言を離れてみだりに拡張解釈をすることは、租税法律主義の見地から相当でない。そして、措置法三九条一項は、例外的な措置として、相続税額のうち譲渡資産に対応する部分の金額を、譲渡所得の算定に当たり取得費に加算し得ることとして、納税者の負担を軽減するものであるから、その解釈、適用は、租税負担公平の原則に照らし、厳格にされるべきである。したがって、本件の場合に、措置法三九条一項を拡張ないし類推適用することは許されない。

原告は、本件は、通達などによっても補うことのできない法の欠缺が生じている場合であるとして、措置法三九条一項を目的的に解釈すべきであると主張する。しかし、同項は、その適用期間を明確に規定しているから、法の欠缺が生じているとはいえず、原告の主張はそれ自体失当である。

また、原告は、措置法三九条一項の二年の期間を絶対的なものと解する必要はなく、右期間経過後であっても、同項の適用を認めることが相当な場合には、その適用を認めるべきであるとする。しかし、厳格解釈が要請される租税の優遇措置に関する規定の中でも、期限という明確で形式的な基準をもって制定されているものについては、より一層厳格な解釈がされるべきであり、実質的妥当性や個別事情を考慮して右基準を類推、拡大することは、かえって、課税に対する法的安定性や予測性を損なうから、許されないというべきである。そして、措置法三九条一項は、その適用を、必ずしも土地等の譲渡が相続の納付を目的としてされた場合に限らないとする一方で、その適用を受けることができる期間を同項所定の期間に限定する趣旨であるから、右期間の制限は、形式的かつ厳格なものと解されるべきである。したがって、原告の右主張も理由がない。

(原告の主張)

被告は、本件不動産の譲渡が、措置法三九条一項所定の期間経過後にされたものである以上、その適用の余地はないとする。しかし、原告は、被告から本件土地の物納が不適当であるとの通知を受けた平成五年一一月一〇日までは、物納による譲渡税の非課税措置(措置法四〇条の三)を受けることを期待していたのであるから、それ以前に、本件土地を処分して措置法三九条一項の適用を受ける途を選択することは不可能であった。そして、原告が物納の許可を受けられないことを知った右通知の時点で、すでに措置法三九条一項の期間が経過していたのであるから、この場合に、同項の適用がないとすると、原告は、何らの帰責事由がないにもかかわらず、物納による譲渡税の非課税措置を受けることも、措置法三九条一項の譲渡税の課税の優遇措置を受けることもできない結果となる。このような事態は法の予想するところではなく、そこに法の欠缺があり、これを補完するためには、裁判所の法解釈による法の欠缺の補充が必要である。右のような結果を是認すれば、物納申請を受けた税務署長は、これに対する拒否の結論を引き延ばし、措置法三九条一項所定の期間が経過した後にこれを不許可とすることにより、措置法三九条一項所定の期間が経過した後にこれを不許可とすることにより、措置法三九条一項、四〇条の三のいずれの適用をも免れ、税収の増額を図りうることになり、極めて不当である。

また、措置法施行令二五条の一五第二項一号ロは、相続税法四一条一項の許可を受けて物納した土地等及び物納申請中の土地等の価額を取得費に加算することができる金額から除外している。これは、相続により取得した財産を物納した場合、措置法四〇条の三により譲渡所得等が非課税とされ、また、物納申請中の土地等は、物納が許可された場合、譲渡所得が非課税とされることが予定されているため、措置法三九条一項のより、重ねて譲渡所得に係る税額の軽減を図る必要がないことによる。したがって、土地等について、物納による譲渡税の非課税措置が受けられない場合には、措置法三九条一項の適用が受けられると解するべきである。

以上のことからすれば、措置法三九条一項所定の期間については、納税者がその責に帰すべからざる事由によりこれを徒過した場合には、右期間経過後もその適用を受けられると解するか、物納申請の許可を受ける見込みがなくなり、措置法四〇条の三の適用を受ける余地がなくなるまでは、右期間は進行しないと解すべきである。

被告は、租税法律主義、租税負担公平の原則から、措置法の解釈は、国家の恣意的な課税措置により国民が不利益を被ることを防止するものであり、措置法が納税者の負担の軽減を図るという政策目的から設けられたものであることからすれば、措置法の文言を形式的に解した場合、納税者の保護を図ることができなくなるような場合には、実質的、合理的な解釈がされるべきである。現に、措置法三五条等の解釈については、このような法の欠缺を補うため通達が発せられるなど、合理的な解釈が図られ、措置法の規定を拡張解釈して事案の妥当な解決を図った裁判所例も少なからず存するところである。

また、措置法三九条一項所定の期間は、相続開始後一定期間内に相続財産の譲渡がされた場合、その譲渡益が相続税の納付に充てられる蓋然性が高いという経験則から便宜上定められたものに過ぎず、これを二年とすることに格別の根拠があるわけではない。なお、改正措置法三九条一項は、納税者の優遇措置の拡大のため、右期間を三年に伸長している。したがって、二年という期間の定めを絶対的なものと解する必要がなく、本件のように、右期間経過後も同項の適用を認める必要がある場合には、これを弾力的に解する余地があるというべきである。

以上のことから、被告が、本件更正処分に当たり、措置法三九条一項を適用しなかったことは違法である。

2  本件通知の違法性

(被告の主張)

原告は、本件更正処分等は、本件物納申請について被告のした違法な却下処分と密接な関係にあるから、違法であるとする。しかし、そもそも、被告は、原告の物納申請を却下はしておらず、現地調査や横浜財務事務所長との協議結果を踏まえ、原告に対し、本件土地が物納財産として収納不適当であるとの通知をしたに過ぎない。原告は、平成五年一一月一七日、物納申請取下書を提出して自ら本件物納申請を取り下げたものである。また、措置法三九条一項は、相続財産に係る譲渡所得について、相続税額のうち一定の金額を取得費に加算し得るとしたものであり、これと、相続税の納付の一方法として物納を定めた相続税法四一条、四二条は、別個独立の規定であるから、本件更正処分等の適否に影響を及ぼすものではない。

なお、原告は、本件更正処分等が無効であるとするが、右処分等に重大かつ明白な瑕疵が存することについては何ら主張していないから、原告の右主張はそれ自体失当である。

(原告の主張)

原告は、本件土地の物納が許可されれば、本件譲渡所得の課税を免れたのであり、また、本件土地が収納不適当であるとの被告の通知が措置法三九条一項所定の期間内にされていれば、右期間内に本件不動産を譲渡することにより、同項の適用を受けることができたのであるから、右通知は、本件更正処分等と密接な関係にある。なお、右通知は、実質的には、物納申請却下決定と認められる。

そして、本件不動産が右通知のあった直後に、相続税の評価額を上回る価格で譲渡され、譲受人であるフルカワは、本件土地を二筆に分筆して転売し、右の各土地は現在、宅地として利用されていることからすれば、被告が、前記のように宅地化のため補修工事を要するなどとして、本件土地を収納不適当としたことは、明らかな誤りである。被告は、昭和六二年の緊急土地対策要綱により、地価監視区域内における一般競争入札による国有地の売却が凍結されたため、本件土地を取得しても、これを処分する見込みがなく、維持・管理費の負担が増大する結果となることをおそれ、ことさらこれを収納不適当としたものと考えられる。したがって、被告の右通知は、その裁量を逸脱してされた違法なものというべきである。

また、税務署長が物納申請についてどの程度の期間内に期間内に許否の結論を下すべきかについて、明文の規定はないが、物納申請が却下された場合、納税者は、申告期限の翌日から延滞税が課せられるなどの不利益を被ることからすれば、それはもっぱら税務署長の裁量に委ねられると解すべきではなく、税務署長は、申請後、標準的、合理的期間内に結論をだすべきであり(行政手続法六条参照)、それができない場合には、少なくとも、措置法三九条一項所定の期間が経過する前に、申請に係る土地等の調査状況、収納の適否についての検討状況を申請者に通知すべきである。しかるに、被告は、標準的、合理的期間内に結論を出さず、しかも、右のような措置を何ら講じることなく、同項所定の期間が経過した後に、収納不適当との通知をしたもので、被告の右措置は違法というべきである。

そして、右通知に関する瑕疵は、いずれも明白かつ重大なものというべきであるから、右通知を前提とする本件更正処分等も同様の瑕疵を帯びるものというべきである。したがって、本件更正処分等は無効である。

3  改正措置法附則の違憲性について

(原告の主張)

改正措置法三九条一項(特例の適用期間を三年に延長するもの)は、個人が平成六年一月一日以後の相続等により取得した資産を同日以後に譲渡する場合に限って適用されるとしており、形式的には、平成二年一一月三日に相続が開始した本件の場合、改正措置法の適用はないことになる。しかし、右改正の理由は、相続税をめぐる諸問題への対応、具体的には納税者が相続税納付のため相続税の処分を余儀なくされる事情のもと、物納申請が急増し、その審査期間が長期化したことにあるものと考えられるところ、このような問題は、すでに、平成五年の措置法の改正(取得費に加算できる金額の拡大等、措置法施行令二五条の一五第二項等)当時から顕在化していたことが明らかであるから、附則九条五項が、平成六年一月一日以後に開始した相続に限って改正措置法三九条一項を適用するとしたことには、合理的な理由がない。そして、右附則によれば、相続に係る土地等を譲渡した日は同じであっても、平成六年一月一日以前に相続が開始した場合と、右以後に相続が開始した場合とで、改正措置法三九条一項の適用の可否についての結論がわかれることになる。これは、憲法一四条に反する不当な差別であり、個人の財産権を保障した憲法二九条にも反するから、右附則は違憲・違法というべきである。

被告は、改正措置法の立法目的が正当であり、附則九条五項は、その達成手段として著しく不合理であるとはいえないとして、右附則は合憲であるとする。しかし、改正措置法ではなく、右附則それ自体の正当性、合理性が問題とされるべきところ、右附則が、事務処理上の便宜から改正措置法の適用範囲を限定したこと自体は正当であるといえるとしても、相続開始日を基準とすることは、改正措置法の適用範囲を余りに形式的に画すもので、明らかに不合理というべきである。被告の主張は理由がない。

附則九条五項が違憲とされた場合、改正措置法がいつから適用されるかが問題となる。そして、この場合、譲渡所得に関する通達が新たに設けられたり改正されたりした場合、「今後処理するものから」これを適用する扱いとされることが多いことを参考にすべきであり、原告が、本件不動産を相続税の申告期限の翌日から三年以内に譲渡していることや、確定申告をした平成七年三月一〇日の時点で、改正措置法はすでに成立・施行されていたことからすれば、本件についても、改正措置法三九条一項の適用が認められるべきである。

このように、本件について、仮に、措置法三九条一項の適用が認められないとしても、改正措置法三九条一項の適用が認められるべきであるから、本件更正処分に当たり、被告が右特例を適用しなかったことはいずれにせよ、違法である。

(被告の主張)

憲法二九条二項は、財産権の内容は法律で定めるとし、憲法八四条は、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには法律又は法律の定める条件によることを要するとして、租税法規の定立については、国家の財政、社会経済、国民所得、国民の生活などの状況に関する正確な資料に基づく専門的技術的判断を要するから、その当否は、立法府の政策的、技術的判断に委ねるほかはない。したがって、立法目的が正当で、その達成手段としてとられた措置の内容が著しく不合理であることが明らかな場合でない限り、これが違憲であるということはできないというべきである。改正措置法が、相続税の物納の急増等に対応する目的で三九条一項の適用期間を伸長したことは正当であり、また、附則九条五項が、平成六年一月一日以後に開始した相続の限って右特例を適用するとしたことが著しく不合理であるとはいえない。したがって、右附則が適用される結果、相続開始が平成六年一月一日以後であったか否かにより、改正措置法の適用の可否についての結論が異なる結果となるとしても、そのことが、憲法一四条一項に反する不合理な差別であるとか、同法二九条に反する財産権の侵害であるということはできない。原告の主張は理由がない。

4  本件更正処分等の根拠及び適法性について

(被告の主張)

被告が主張する原告の平成六年分の総所得金額及び本件譲渡所得の金額等の計算根拠は、次のとおりである。

(一) 総所得金額 一五七九万円

右金額は、原告の平成六年分の給与所得の金額であり、本件確定申告書に記載されている総所得金額と同額である。

(二) 本件譲渡所得の金額 五二〇八万六八九〇円

右金額は、次の(1)から(2)及び(3)の合計額を控除した金額である。

(1) 総収入金額 五六〇〇万円

右金額は、フルカワに対する本件土地の譲渡代金五三六〇万円及び本件建物の譲渡代金二四〇万円の合計であり、本件確定申告書に記載されている総収入金額と同額である。

(2) 取得費 三八四万五四一〇円

右金額は次の<1>及び<2>の合計額である。

<1> 本件土地の取得費 二六八万円

右金額は、措置法三一条の四の規定する長期譲渡所得の概算取得費控除の金額であり、本件土地の譲渡に係る収入金額五三六〇万円の一〇〇分の五に相当する金額である。

<2> 本件建物の取得費一一六万五四一〇円右金額は、所得税法三八条及び所得税法施行令(以下「施行令」という。)八五条に基づき本件建物の取得価額八八二万円から、本件建物の取得の日から譲渡の日までの期間について、原告の父及び原告(以下「原告ら」という。)が本件建物を業務の用に供していた期間の減価償却費の額の累積額(後記アの金額)及びこれを業務の用に供していなかった期間に係る減価の額(後記イの金額)を控除した金額である。なお、原告らが本件建物の償却費の額を施行令一二〇条一項一号イの規定する定額法に基づき算定し、本件建物の賃貸収入に係る所得税の申告をしていたこと、業務の用に供していなかった期間に係る減価の額は所得税法三八条二項、施行令八五条一項により定額法により計算することとされていることから、右累積額及び減価の額はいずれも定額法により算出した。

ア 業務の用に供していた期間の減価償却費の累積額 五五七万六五九八円

右金額は、原告らが本件建物を業務の用に供していた期間(昭和四八年一二月から平成三年六月まで)の減価償却費の額を累積した額であり、原告らが本件建物の賃貸収入に係る所得金額を算出するに当たり、必要経費に算入した本件建物を減価償却費の額の累積額に一致する。

なお、右累積額は、原告が平成三年分の所得税の確定申告書に添付した収支内訳書(以下「本件収支内訳書」という。)の裏面の「減価償却費の内訳」欄の「償却の基礎となる金額」七九三万八〇〇〇円から「未償却残高」二三六万一四〇二円を控除した金額である。

イ 業務の用に供していなかった期間に係る減価の額 二〇七万七九九二円

右金額の算出経過は次のとおりである。

本件建物は、昭和四二年五月一〇日に新築され、平成六年一月一七日にフルカワに引き渡されており、その間、原告らが本件建物を業務の用に供していたのは、昭和四八年一二月から平成三年六月までである。したがって、本件建物が業務の用に供されていなかった期間は、<1>昭和四二年五月一〇日から昭和四八年一一月までと、<2>平成三年七月から平成六年一月一七日まで(以下右<1>及び<2>の期間を併せて「減価期間」という。)となる。

施行令八五条は、減価期間の減価の額は、本来の耐用年数に一・五を乗じた金額により定額法に基づき計算すべきものとし、減価期間に係る年数に端数がある場合、六月以上の端数は一年とし、六月に満たない端数は切り捨てることとしている。本件建物が業務のように供された際の耐用年数が二四年であるから、減価償却の減価を計算する場合の耐用年数は、二四に一・五を乗じた三六年となり、右<1>の期間は六年六か月であるからこれを七年とし、右<2>の期間は二年六か月であるからこれを三年として減価の額を計算すべきことになる。また、耐用年数が三六年の建物の定額法に係る減価償却費を計算する場合の償却率は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令四条(同令別表九)により〇・〇二八となり、本件建物の残存価額は、同省令五条(同令別表一〇)により本件建物の取得価額に一〇〇分の一〇を乗じた金額となる。

なお、本件建物の取得価額は、右<1>期間について八〇〇万円、右<2>の期間について八八二万円である。

以上により、減価償却の係る本件建物の減価の額を計算すると、別表「減価償却に係る本件建物の原価の額の計算」のとおりとなる。

(3) 譲渡費用

右金額は、原告が本件土地の登記名義人の住所変更に係る登記費用として鋪谷雅彰に支払った七七〇〇円及び本件不動産の売買契約書に貼付した収入印紙代六万円の合計額であり、原告が確定申告書に添付して提出した「譲渡内容についてのお尋ね」に記載されている譲渡費用の金額と同額である。

(三) 課税総所得金額 一三四二万四〇〇〇円

右金額は、前記(一)の総所得金額一五七九万円から所得税法第二編第二章第四節の規定する所得控除の金額二三六万五三五〇円(本件の確定申告に係る所得税控除の金額と同額)を控除し、通則法一一八条により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額である。

(四) 課税長期譲渡所得金額 五一〇八万六〇〇〇円

右金額は、前記(二)の金額五二〇八万六八九〇円から措置法三一条二項の規定する長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円を控除し、通則法一一八条により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額である。

(五) 納付すべき税額 一三五四万二二〇〇円

右金額は、次の(1)及び(2)の合計額から(3)ないし(5)の合計額を控除し、通則法一一九条により一〇〇円未満の端数を切り捨てた金額である。

(1) 課税総所得金額に対する所得税額 三四六万九六〇〇円

右金額は、前記(三)の課税総所得金額に対する所得税額であり、所得税法八九条(ただし、平成六年法律一〇九号による改正前のもの。)により計算した金額である。

(2) 課税長期譲渡所得金額に対する所得税額 一五三二万五八〇〇円

右金額は、前記(四)の課税長期譲渡所得金額に対する所得税額であり、措置法三一条一項に基づき計算した金額である。

(3) 特別減税額 二〇〇万円

右金額は、平成六年分所得税の特別減税のための臨時措置法四条に規定する特別減税の額である。

(4) 源泉徴収税額 四〇八万三二二二円

右金額は、原告の給与所得に係る源泉徴収税額の合計額であり、本件確定申告書に記載されている源泉徴収額と同額である。

(5) 申告納税額 △八三万〇一〇〇円

右金額は、原告の平成六年分所得税の確定申告に係る納税額で、本件確定申告書において、納税額零を下回る部分とされている金額と同額である。

(六) 被告が本訴において主張する原告の平成六年分の総所得金額及び本件譲渡所得の金額は前記(一)及び(二)のとおりであり、右各所得金額に基づき算出される納付すべき税額は、一三五四万二二〇〇円となるところ、右金額は、本件更正処分における納付すべき税額一三三五万〇二〇〇円を上回るから、本件更正処分は適法である。

また、被告は、通則法六五条一項に基づき、原告が本件更正処分により納付すべきこととなった税額一三三五万円(通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した一三三万五〇〇〇円と、同条二項により右納付すべき税額のうち期限内申告税額三二五万三一二二円(本件確定申告書に記載されている源泉徴収税額四〇八万三二二二円から右申請書に記載されている八三万〇一〇〇円を控除した金額)を超える部分に相当する金額一〇〇九万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に一〇〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額五〇万四五〇〇円との合計額一八三万九五〇〇円を過少申告加算税として賦課決定したものであり、本件賦課決定は適法である。

(原告の主張)

被告の主張のうち、原告の平成六年分給与所得に係る総所得金額及びこれに対する所得税額を除く部分は争う。

5  本件更正処分等の違憲性について

(原告の主張)

原告は、相続税を納付するために本件不動産を売却したものであるから、本件譲渡に係る長期譲渡所得税も、相続を契機として発生したものであることは明らかである。ところが、本件更正処分等が適法とされた場合、原告は、本件譲渡収入として五六〇〇万円を取得する反面、相続を契機として、次の内訳の合計六六六〇万四七〇〇円の税額等の納付を強いられることになる。

(一) 更正後の相続税(土地分) 四五九三万七五〇〇円

(二) 利子税 五四七万七七〇〇円

(三) 分離長期譲渡所得税 一三三五万〇二〇〇円

(四) 過少申告加算税 一八三万九五〇〇円

合計 六六六〇万四七〇〇円

このように、原告が相続によって取得した財産的価値を超える価値を国家が税額として収奪することは、その名目にかかわらず、不合理であり、租税負担公平の原則に反し、平等原則を保障した憲法一四条、個人の財産権をを保障した憲法二九条に反し、違憲・違法というべきである。

(被告の主張)

原告が、本件更正処分等により納付を強いられることとなったと主張する税額等の内訳のうち、(一)は、原告の納付すべき相続税額の総額であり、本件の相続財産には、本件土地のほか、本件建物、大倉産業株及び現金が含まれており、右全額が本件土地の係る相続税額に相当するものでもない。また、(二)は、原告が、本件相続額の一部を延納することとしたため、法定納期後、徴収を猶予される期間を利息に相当する金額を原告が負担することとなったものである。また、(三)は、本件更正処分により原告が納付すべき税額であり、本件譲渡所得に係る課税長期譲渡所得金額だけではなく、総所得金額に対する税額も含むものであり、(四)は、被告が本件賦課決定をしたことによるものである。このように、原告は、それぞれ発生の根拠を異にする税額を混同し、本件譲渡所得と関係のない税額等をも一括して、本件譲渡収入と比較しており、原告の主張が理由がないことは明らかである。

また、本件更正処分における課税長期譲渡所得金額は五〇四四万六〇〇〇円であり、これに対する税額は一五三万三八〇〇円(一三三五万〇二〇〇円は、本件更正処分により納付すべきこととなった税額であり、課税長期譲渡所得金額だけではなく、総所得金額に対する税額を含む。)であるから、本件不動産の譲渡に係る税額が、譲渡収入金額である五六〇〇万円を下回ることは明らかである。

第三争点に対する判断

一  措置法三九条一項の適用について

措置法三九条一項は、相続又は遺贈をした個人で当該相続又は遺贈につき相続税法の規定による相続税額があるものが、当該相続の開始があった日の翌日から、当該相続に係る同法二七条一項の規定による申告書の提出期限の翌日以後二年を経過する日までの間に、当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡した場合において、譲渡所得に係る所得税法三三条三項の規定の適用に関し、同項に規定する取得費は、当該取得費に相当する金額に当該相続税額のうち政令で定める金額を加算した金額とすると規定している。

ところで、本件相続の開始があった日が平成二年一一月三日であることは争いがないところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、同日、相続の開始があったことを知ったと認められるから、本件相続に係る相続税の申請書の提出期限は、相続税法二七条一項、通則法一〇条二項により、その翌日である同月四日から六か月後の平成三年五月七日(同月三日から同月六日までが休日にあたることは当裁判所に顕著である。)となる。そして、原告が、平成五年一二月一三日、フルカワとの間で本件不動産をフルカワに引き渡したことは争いがないから、本件不動産の譲渡が、前記申告書の提出期限の翌日から二年を経過した後にされたことは明らかである。

そうすると、本件について、措置法三九条一項は適用されないことになるから、被告が本件譲渡所得の算定に当り、本件土地に係る相続税額をその取得費に加算しなかったことは適法である。

これに対し、原告は、被告から本件土地が収納不適当であるとの通知(本件通知)を受けた平成五年一一月一〇日までの間は、物納の許可を受けることを期待していたから、それ以前に、本件土地を処分することは不可能であったとし、このように、原告の責に帰すべからざる事由により措置法三九条一項の期間を徒過した場合には、右期間経過後もその適用をうけられると解するか、物納申請書の許可を受ける見込みがなくなるまでは、右期間は進行しないと解するべきであるとする。

なるほど、本件通知が措置法三九条一項所定の期間内にされていれば、原告は右期間内に本件土地譲渡することにより、同行の適用を受ける余地があったことは否定し得ない。しかしながら、措置法は、本来課られるべき税額を政策的な見地から特に軽減するものであるから、租税負担公平の原則に照らし、その解釈は厳格にされるべきであり、殊に、期限という明確で形式的な基準をもって規定されている条件については、厳格な解釈が要請されるというべきである。したがって、みだりに実質的妥当性や個別事情を考慮してこれを拡張、類推解釈することは許されない。そして、措置法三九条一項が、譲渡所得に係る課税の優遇配置が適用される期間を相続税の申告書の提出期限の翌日から二年以内と明確に限定しており、納税者が右期間を徒過した場合について、格別の救済措置を設けていないことからすれば、右期間について、例外的な扱いを認めることは予定されていないものと解すべきである。もっとも、前述のような経過によれば、確かに、原告が、右期間を徒過した後に本件不動産を処分するに至ったのには、無理もない事情があるといえ、同情すべき余地がある。しかし、元来、物納申請について定めた相続法四一条等と措置法三九条一項の特例とは別個独立の規定・制度であり、前者の可否を決するまで、後者の適用の可否を持つべきことが、法律上、当然に予定されているとまではいえないし、右両者の関係について原告の主張するような「法の欠缺」があるともいえない。したがって、本件において、原告が右期間を徒過したことについて、原告を非難することは酷ではあるが、それ故に、直ちに、原告の責に帰することができない事由を個別の考慮して右期間の制限の例外を認めることはできないというほかはない。

原告は、措置法三九条一項が、適用期間を二年としたことに、それ自体根拠があるわけではなく、改正措置法もこれを三年に伸長していることからしても、右期間の制限を絶対的なものと解する必要はないとする。しかし、それは、右法の意義を無視するものであって、理由がないというべきである。

また、原告は、措置法施行令二五条の一五条の一五第二項一号ロが、取得費に加算する金額から物納した土地等及び物納申請中の土地等の価額を除外していることから、物納による譲渡所得の非課税措置を受けられない場合には、措置法三九条一項により譲渡所得の優遇措置が受けられるものと解すべきであるとする。しかし、右施行令は、物納に係る土地等の相続税額については、当該物納に係る土地等の価額がその納付に充てられ、土地等の譲渡所得がその納付に充てられるものではないことから、当該物納に係る土地等の価額を取得費に加算する金額から除外したものと解される。したがって、右規定を根拠に、土地等の物納が認められない場合には、当該土地等の譲渡所得に係る税額につき措置法三九条一項の優遇措置が受けられるものと解することはできない。原告の主張は理由がない。

二  本件通知の違法性について

原告は、被告が原告の物納申請に対し、本件土地は収納不適当であるとしたことは誤りで、被告が原告に対しその旨通知(本件通知)したことは、実質的には却下決定であり、本件通知と本件更正処分等は密接な関係にあるから、本件更正処分等は違法、無効であると主張する。

被告が、平成六年一一月一〇日、原告に対し、本件土地は宅地化のために大規模補修工事を要し、維持管理に多額の工事費が見込まれることなどを理由に収納不適当とする本件通知をしたこと、これに対し、原告が、同年一一月一七日、本件物納申請を取り下げたことは、いずれも争いがなく、したがって、本件通知をもって、右申請に対する却下決定であるということはできない。そして、証拠(甲六ないし九号証、一〇号証、二二号証、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件通知後間がない平成六年一二月一〇日、本件土地を相続税額を上回る五六〇〇万円でフルカワに売却したこと、本件土地は、平成六年一月ころ、建築確認がされ、同年七月二七日、横浜市港北区大曽根台六二〇番五九、六二〇番一八五の二筆に分筆され、前者は平成六年八月二九日、フルカワから福島正安に譲渡され、平成九年現在、宅地として利用されていることが認められる。

右によれば、被告による本件通知の理由には、問題の余地があると考えられるが、これらの事実から、被告が、物納申請許否の要件に関し、右理由により本件土地を収納不適当と判断したことが、直ちに誤りであるとまでは断定しえない。原告は、国有地の売却が凍結され、本件土地を取得しても、これを処分する見込みがないことから、被告がことさら収納不適当としたとも主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

また、仮に被告の右判断に誤りがあったとしても、相談税法四一条等の物納の許否と、本件更正処分等が措置法三九条一項等の規定に照らし適法といえるかどうかは別個に判断されるべきものであり、前者の判断に誤りがあったとしても、そのことが、直ちに後者の違法をきたすものとはいえない。

また、原告は、税務署長は措置法三九条一項所定の期間内に、物納の適否についての結論ないしその検討状況等を納税者に通知すべきであり、被告は右措置を怠った違法がある等主張する。一般的には、税務署長は、税務行政として、物納申請に対して、合理的な期間内に結論を出すべきであるといえ、また、措置法三九条一項の特例の適用については、期間の制限があるのであるから、この点を念頭において、物納申請に対し応答等をするのが望ましいといえる。そして、本件において、原告が右のような点について被告に期待していたとすれば、それは心情的には無理からぬところがあるといえる。しかし、前述のように、両者は、法律的には別個独立の規定であり、これらが原告主張のように関連することが法律上予定されているとはいえないと解される。

以上によれば、原告のこれらの主張はいずれも理由がないといわざるを得ない。

三  改正措置法附則の違憲性について

原告は、附則九条五項が、平成六年一月一日以後に相続が開始した場合で、相続等により取得した資産を同日以後に譲渡した場合に限って改正措置法三九条一項が適用されるとしていることは、明らかに不合理であり、憲法一四条、二九条に反し、違憲・違法であると主張する。

ところで、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民の生活等の状況に関する専門的技術的判断を要するから、その当否は、立法府の政策的、技術的判断に委ねられ、立法目的が正当で、その達成手段が明らかに不合理であるといえない場合には、にわかにこれが違憲であるということはできないと解される。

そして、弁論の全趣旨によれば、改正措置法三九条一項は、物納申請の急増等に対応するために改正されたものと認められ、右のような状況は、平成五年ころから生じていたものと推認される。しかし、このような場合に、改正法をいつの時点から適用するかは、優れて立法政策の問題といわざるを得ず、平成六年一月一日以後に相続の開始及び資産の譲渡があった場合に改正措置法三九条一項の適用があるとしたことは、それなりの理由があるものといえ、それが、明らかに不合理であるとまではいえない。したがって、右時点を境に、同項の適用が分かれることになるのはやむを得ないというべきである。

そうすると、原告の違憲・違法の主張は理由がない。

四  本件更正処分等の根拠について

以上のとおり、本件について措置法ないし改正措置法三九条一項の適用はないから、被告が本件譲渡所得の算定に当たり、本件土地に係る相続税額を取得費に加算しなかったことは適法である。

そうすると、被告主張のとおり、本件土地に係る長期譲渡所得の概算取得費は、措置法三一条の四条一項により、本件土地の譲渡収入金額五三六〇万円の一〇〇分の五に相当する二六八万円となる。

また、前記第二の二の争いのない事実に加え、証拠(甲五号証、乙三、四号証、弁論の全趣旨)によれば、被告は、本件建物の取得費を前記第二の三、4、被告の主張の(二)の(2)、<2>のとおり算定したことが認められる。

以上のとおり、本件土地及び建物の取得費の算定は、措置法、所得税法等の規定に従い適法にされたものであり、本件譲渡所得及びこれに対する税額の算定も前記被告の主張のとおり適法にされたものといえるから、本件更正処分及び本件賦課決定は適法である。

五  本件更正処分等の違憲性について

原告は、本件更正処分等の結果、本件譲渡所得を上回る課税がされたとして、右処分等は憲法一四条、二九条に違反するとする。しかし、前記四で認定の本件更正処分等の根拠に照らせば、前記第二の三、5で原告が問題とする税額のうち、(一)は、本件の相続税額の総額で、本件譲渡所得に係る税額以外の税額も含むものであり、(二)は、法定納期限後の利息に相当する利子税額であって、本件譲渡所得税に係る税額ではなく、(三)は、総所得金額に対する税額で、本件譲渡所得の係る税額以外の税額も含むものであり、(四)の過少申告加算税も、本件譲渡所得それ自体について課されたものといえないことは明らかである。このように、原告は、本件譲渡所得に係る税額以外の税額をも一括した金額が、右譲渡所得を上回るとして、本件更正処分等が違憲であるとしているのであるから、その主張自体その前提を欠き、失当というべきである。

六  結論

以上のとおりであり、本件更正処分等が違法であるということはできず、原告の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 近藤壽邦 裁判官 近藤裕之)

物件目録

一 所在   横浜市港北区大曽根台

地番   六二〇番五九

地目   宅地

地積   二九五・二八平方メートル

二 所在   横浜市港北区大曽根台六二〇番地五九

家屋番号 六二〇番地五九

種類   共同住宅

構造   木造鉄筋コンクリート造亜鉛メッキ銅版葺

地下一階付二階建

床面積  一階 一一五・九三平方メートル

二階 一一五・九三平方メートル

地階 八四・九〇平方メートル

別表

本件更正処分等の経緯

<省略>

別表

本件更正処分等の経緯

<省略>

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